DXは攻めの時代へ。接客業界を革新する「接客DX」とは
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コロナ禍以後、あらゆる業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に注目が集まっています。
その中でも特に急速に推進が求められているのが、本稿で解説する全く新しいDXです。
産業におけるDXとは
そもそもDXとは、経済産業省によれば、
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
と定義されています。
簡潔に言い換えるなら、「企業がデータやデジタル技術を活用することによって変化の激しいビジネスシーンでの対応力を身につけ、競争力を高めること」がDXであるとされています。単に業務をデジタル化することはデジタイゼーション、デジタライゼーションと呼ばれており、デジタル化はあくまで「企業の競争力を高め、競争上の優位性を確立する」という目的のための手段であると言えます。
「攻め」と「守り」のDX
現在、新型コロナウィルスの蔓延によって、半ば強制的に引き起こされた技術的ブレイクスルーのひとつとして、DXは最近注目を集めるに至っています。
しかしながら「経済活動によって企業の競争力を高める」という目的で行われている事例は極端に少なく、基本的には「オフィスや店舗で人間がやっていた仕事を機械やプログラムによってデジタル化し、人件費や工数を削減することによって生産性を向上させる」といった
「守りに特化したDX」が主流です。企業や事業者にとって重要であることは間違いありませんが、この「守りのDX」を推進する企業はランニングコストや技術的負債、データのブラックボックス化などの課題を抱えており、現在DXの推進によって成功している企業は全体の約5%であると言われています。
引用元:BAIN&COMPANY Orchestrating a Successful Digital Transformation
この結果を見ればDXを導入し、推進していく中で「想定より伸び悩んだ」と考えている企業が圧倒的に多いことがわかります。そもそもDXにかかるコストと、その結果カットできたコストが釣り合っていないという問題が噴出していることがわかります。
この数字を見れば、ただでさえ「デジタル化による生産性の向上、無駄の排除」という引き算の思考で進められてきたこれまでのDX(守りのDX)に対して、経営者が慎重になるのも頷けます。
確かに守りのDXによって支出を減らすことは重要で、企業による経済活動の持久力を高めてくれるのは間違いありません。
しかし、海外の事例を見る限り、筆者の見解としてはそれだけでは不十分であるという結論に達しました。
DXとは、支出を減らして、尚且つ収入を増やすことで初めてその力を発揮できるのではないでしょうか。つまり現状のDXに足りていないのは、「売上を積み上げるためのDX」です。これは謂わば足し算の考え方であり、より直接的に、積極的に売上に貢献する「攻めのDX」とも言えます。
攻めのDXとは、業務オペレーションをデジタル化するだけではなく、サービスそのものをデジタル化することで、あらゆる環境下に適応する新たなUXを生み出し売上を伸ばすという新しいDXの概念です。
現在、主に海外でこの「攻めのDX」が注目されている元々の理由は、新型コロナウィルスへの感染対策として物理的接触を嫌うユーザーの割合が増えたことに起因しています。
必然的に「物理的接触を避けながらサービスを受ける」というモデルの需要が高まったことによって、急速に需要が高まっているのです。
とりわけ接客業界はこの「攻めのDX」に注目しており、コロナ蔓延から現在まで、接客機会の損失によって売上を失ってきた企業群は、今後売上を取り戻すために積極的に「攻めのDX」を導入していくことが予想されています。
本来の目的に沿った「攻めのDX」
具体的に売上を取り戻す、課題を解決するためのDXとは、より経済活動に寄り添ったデジタル化を推進していくことで、これまで損失してきた接客の機会を取り戻すことを主旨に据えています。
攻めのDXでは、事務作業やルーティンワークのデジタル化だけではなく、エンドユーザーの受ける”体験”をデジタル化させることが肝要になってきます。
特にコロナ禍の影響が大きかった接客業界では、店舗での接客が激減したことによって売上も減少し、経済活動そのものが脅かされてきました。
「店舗に来店する」という当たり前が崩れたことで、廃業に追い込まれた企業や事業者も多く、接客サービスそのものをデジタル化させる必要性が出てきました。
ただ、一口に一連の体験をデジタル化させると言っても店舗のEC化やサービスのデジタル化のような、「点」の施策だけでは不十分であると言えます。コロナ以前、店舗の売上に貢献しているのは「店舗販売員による接客」によるものが大きかったからです。
「入店→欲しい商品の傾向をヒアリング→該当する商品をピックアップし、セールスポイントを説明→購入」
という、要所で消費者にはたらきかける販売員による接客を全てデジタルの世界に再現することで、消費者は店舗に来店する必要が無くなり、いつでもどこでもデジタルの世界から来店することが可能になります。
そうした体験のDXが実現することで初めて、「デジタル化によって売上を増やす」という攻めのDXの力が発揮できるようになると考えています。
ユーザーに寄り添い、適切な商品やサービスを購入する意思決定の補助をするには、顧客が購入に至るまでの導線を的確に捉えて、それぞれを連携させる「線」で繋がったDXが必要になります。
売上を取り戻す「接客DX」
先述したとおり、接客におけるDXを進める上で大切なのは、いかにデジタルの世界に接客を通してユーザーが得られる体験を持ってくるのか、という点です。そのためには「欲しいものを知る」「買うものを選ぶ」「買う」といったそれぞれのプロセス単体をデジタル化するだけでは望ましい効果は得られず、全てが線で繋がっていて初めて「接客を受けた」という体験に繋がります。
そのためには「接客員との生きたコミュニケーション」が不可欠です。
それを実現するためには、「信頼のおける接客員」をデジタルの世界に持ってくる必要があります。接客業界のDXにおいて「生きたコミュニケーション」を捨て去ることは不可能であり、更にはこれを「いつでも、どこでも接客を受けられる状況」と両立させる必要があります。
アフターコロナを見据えたサービスを展開し、企業が優位に立つには、集客から購入、その後のケアまで、全ての接客プロセスをデジタル化することで、商品やサービスの購買を活性化させる、攻めのDXを実現させていくことが接客におけるDXには肝要であると言えます。
この接客DXが拡大していくことで、例えば自動車、住宅のような高額な商材の購買や、保険や金融などのプロフェッショナルによる応対が求められる業界でも商談が成り立つようになり、結果として売上の増加に繋がっていくと考えられています。
接客DXは、少なくともこれからの「攻めのDX」に属する技術革新の一端を担うことになるサービスであり、DX市場を更に押し上げる起爆剤になる未来も、そう遠くはないのかもしれません。